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買ったら来ない、買わなかったら来る|その「感覚」を行動経済学で説明する
2026-03-184分で読める

買ったら来ない、買わなかったら来る|その「感覚」を行動経済学で説明する

買ったら来ない、買わなかったら来る|その「感覚」を行動経済学で説明する

「さっき切った馬が来た」「買うのをやめた瞬間に来た」

競馬をやっていれば、こういう経験は数え切れないほどあるはずです。結論から言うと、これは錯覚です。 ただし「気のせいだ」と一言で片づけられるものではなく、人間の脳の仕組み上、誰もが必ず陥る避けられない錯覚なんですね。

なぜそう感じるのか。心理学と確率論の観点から整理します。

原因① 記憶の非対称性

まず最も根本的な理由です。

人間の記憶は、感情が強く動いた出来事ほど鮮明に残るという特性があります。これは進化的な理由で、危険や後悔を記憶しやすい脳を持つ個体のほうが生存に有利だったからです。

競馬で起きる4パターンを感情の強さで整理するとこうなります。

パターン感情の強さ記憶への残りやすさ
買って負けた悔しい・強い鮮明に残る
買わずに来た悔しい・強い鮮明に残る
買って当たった嬉しいが次第に薄れる徐々に薄れる
買わずに来なかった何も感じないほぼ残らない

「買って負け」と「買わずに来た」の2パターンだけが脳内に蓄積されていくわけです。

買わずに来なかったケースは毎週何十回も起きているのに、感情が動かないので記憶に残りません。結果として「買ったら来ない・買わなかったら来る」という印象だけが積み上がっていくんですね。

原因② 確証バイアス

記憶の非対称性に加えて、確証バイアスという心理も働きます。

確証バイアスとは、「自分がすでに持っている信念を支持する情報だけを集め、反する情報を無視してしまう」傾向のことです。

一度「買ったら来ない」という感覚を持つと、脳はその信念を確認しようとします。

  • 「やっぱり買ったら来なかった」→ 強くインプット
  • 「買ったら来た」→ 「たまたまだ」とサラッと流す

これが繰り返されると、信念はどんどん強化されます。実際の的中率がどうであれ、「買ったら来ない」という感覚は時間とともに強まっていく一方なんですね。

スーパーでいえば、自分が選んだレジだけいつも遅く感じるのと同じ仕組みです。実際には他のレジも同じくらい遅いのに、「自分が選ぶといつも外れる」という記憶だけが積み重なっていく。

原因③ ギャンブラーの誤謬

「さっき3回外れたから、次こそ来るはず」という感覚も同じ構造です。

これをギャンブラーの誤謬と呼びます。過去の結果が次の結果に影響するという思い込みですが、確率論的には誤りです。

コインを10回投げてすべて表だった
→ 「次は裏が出るはず」と感じる

これは誤りです。
次のコインは過去10回と無関係に50%で表か裏です

競馬も同じで、前のレースで10回外れても、次のレースの各馬の確率は変わりません。

「そろそろ来るはず」で買い始めると、期待値を無視した購入につながります。「来そうな気がする」は判断基準にならないんですね。

原因④ 実際に的中率が低い可能性

ここだけは少し異なる話です。

上記3つはすべて「錯覚」の話でしたが、実際に回収率が低い買い方をしている場合は、感覚と現実が一致しているケースもあります。

特に同調バイアスで1番人気を中心に買い続けている場合、長期的な回収率は80%前後に収束します。つまり「買うたびに少しずつ負けている」状態です。

この場合は錯覚ではなく、買い方そのものに問題があります。「なんとなく人気馬を買う」習慣がある人は、自分の回収率を一度記録して確認してみるのが正直なところ重要です。

「感覚」ではなく「記録」で判断する

では、どう対処するか。

答えはシンプルで、記録をつけることです。

感情で作られた記憶ではなく、データで自分の買い方を評価する習慣を持つことが唯一の対処法なんですね。

記録すべき最低限の項目はこちらです。

記録項目理由
買った馬・券種・金額賭け金の管理と振り返りのため
そのときのEV(期待値)基準を守れているかの確認
結果(払戻金)回収率の算出
見送ったレースの結果「買わなかったら来た」の実態を確認

特に最後の項目が重要です。「買わなかったら来た」と感じていても、記録をつけると実際には来ていないケースのほうが圧倒的に多いことに気づきます。感覚と現実のズレが数字で可視化されるんですね。

まとめ

原因内容
記憶の非対称性悔しい記憶だけが蓄積され、印象が歪む
確証バイアス「買ったら来ない」という信念が自己強化される
ギャンブラーの誤謬過去の結果が次に影響するという思い込み
実際の回収率問題同調バイアスで人気馬を買い続けている場合は現実の問題
対処法感覚ではなく記録で自分の買い方を評価する

「買ったら来ない」という感覚は、脳の正常な働きが生み出す錯覚です。意志の問題でも、運が悪いわけでもありません。ただ、その錯覚に乗っかって買い方を変えると、期待値は確実に下がります。

感覚を信じるのではなく、記録を信じる。それだけで長期収支はかなり変わるんですね。


※ 本記事は行動経済学・認知心理学の研究をもとに、競馬への応用として解説しています。

Martin

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Python × 競馬。多変量解析で「トラックバイアス」を数値化し、真の期待値を自動算出。